公認会計士は、公認会計士法第2条2項に規定する業務に付随して行う場合には社会保険労務士法第2条に掲げる事務を業として行うことが可能です。
税理士は、税理士又は税理士法人が行う税理士法 第二条第一項 に規定する業務に付随して行う場合には社会保険労務士法第2条に掲げる事務を業として行うことが可能です。
社会保険労務士法施行令が例外としている業務は
公認会計士が「いわゆる財務に関するコンサルティング業務(2項業務)」
に付随する社会保険事務としていることに対し
税理士は、「税務代理・税務書類の作成・税務相談(1項業務)」
※ 財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務(2項業務)が含まれない
に付随する社会保険事務とされているということとなり、法文の定義の仕方として、幅広い業務が想定される公認会計士の2項業務に対し、税理士が税務業務に限定されているされているところがポイントです。
平成14年に全国社会保険労務士会連合会及び日本税理士会連合会が、国税庁と厚生労働省の立会いのもと税理士又は税理士法人が行う付随業務の範囲に関する確認書を締結した結果、
税理士及び税理士法人は、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の労働社会保険官公署等への提出をすることができないこととなりました。
また、税理士及び税理士法人が行える付随業務としての社会保険労務士業務の範囲が、「租税債務の確定に必要な事務」の範囲内に限るということで明確にされました。
一方で、社会保険労務士は、年末調整に関する事務を行えなくなりました。
(年末調整事務が、税理士法第2条第1項に規定する業務に該当することが確認された)
社労士会と税理士会のこの取り決めは、サービス提供を受ける顧客の観点が欠落していると感じます。また顧客サービスを行っている現場にとっても不利益が大きい結果でありました。
クライアント側の立場では、
・簡単な年末調整と法定調書の提出をこれまで社労士先生にお願いしていたが、平成14年以降、先生に頼めなくなった
・税理士先生に給与計算をお願いしており、入社退社に関する簡単な社会保険事務をお願いしていたが、平成14年以降、先生に頼めなくなった
クライアントの感想は、「会社のことをよく分かってる〇〇先生に全部お願いしたいのに。。。別途契約しなければならないんですか?」というものです。もちろん、高度な内容(自身で責任が取れないレベルのもの)については、業務を受けた税理士・社労士は、それぞれ社労士、税理士に助言を求め、又は斡旋するべきでしょう。ただし、リスクが低い定常的な手続き業務についてまで士業団体の利益を優先させ、独占業務であるという主張を行うこと、それ自体が士業の業界全体に対する評価の低下をもたらすものであると考えます。
士業は職業的専門家としての倫理を保持しつつそれぞれの強みを生かしてつつ、相互に協力しクライアントに対してベストなソリューションを提供すべきです。
(参考)社会保険労務士の業務
社会保険労務士法 第二条 まとめ
(いずれも労働社会保険諸法令に基づくもの)
1号 労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成
1号の2 労働社会保険諸法令に基づく申請書等の提出代理
1号の3~6 事務代理・紛争代理
2号 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成
3号 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導すること。
※ 3号は独占業務でないことに留意
・社会保険労務士法 第二十七条
社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。
・社会保険労務士法施行令 第二条
法第二十七条 ただし書の政令で定める業務は、次に掲げる業務とする。
1 公認会計士又は外国公認会計士が行う公認会計士法 (昭和二十三年法律第百三号)第二条第二項 に規定する業務
2 税理士又は税理士法人が行う税理士法 (昭和二十六年法律第二百三十七号)第二条第一項 に規定する業務
・公認会計士法 第二条2項
公認会計士は、前項に規定する業務のほか、公認会計士の名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずることを業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
・税理士法 第2条(税理士の業務)
第1項 税理士は、他人の求めに応じ、租税(略)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
1 税務代理(税務官公署(税関官署を除くものとし、国税不服審判所を含むものとする。以下同じ。)に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法 (昭和三十七年法律第百六十号)の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立て(これらに準ずるものとして政令で定める行為を含むものとし、酒税法 (昭和二十八年法律第六号)第二章 の規定に係る申告、申請及び不服申立てを除くものとする。以下「申告等」という。)につき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること(次号の税務書類の作成にとどまるものを除く。)をいう。)
2 税務書類の作成(税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第三十四条第一項において同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)で財務省令で定めるもの(以下「申告書等」という。)を作成することをいう。)
3 税務相談(税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等(国税通則法 (昭和三十七年法律第六十六号)第二条第六号 イからヘまでに掲げる事項及び地方税に係るこれらに相当するものをいう。以下同じ。)の計算に関する事項について相談に応ずることをいう。)
第2項 税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。
・「財務省令で定めるもの」
税理士法施行規則抜粋
第一条 税理士法第二条第一項第二号に規定する財務省令で定める書類は、届出書、報告書、申出書、申立書、計算書、明細書その他これらに準ずる書類とする。
〇税理士又は税理士法人が行う付随業務の範囲に関する確認書(平成14年6月6日)
全国社会保険労務士会連合会及び日本税理士会連合会は、社会保険労務士法第27条ただし書及び同法施行令第2条第2号に基づく付随業務の範囲に関する協議において、下記のとおり意見の一致をみたのでここに確認する。
1. 税理士又は税理士法人が社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務を行うことができるのは、税理士法第2条第1項に規定する業務に付随して行う場合であること。
2.
(1) 上記1にいう税理士又は税理士法人が付随業務として行うこと ができる社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務は、「租税債務の確定に必要な事務」の範囲内のものであること。
(2) 社会保険労務士法第2条第1項第1号の2の業務(提出代行)及び同項第1号の3の業務(事務代理)は、付随業務ではないこと。
3.付随業務に関して疑義が生じた場合は、その都度、全国社会保険労務士会連合会と日本税理士会連合会との間で協議の上、解決を図ることとする。
なお、年末調整に関する事務は、税理士法第2条第1項に規定する業務に該当し、社会保険労務士が当該業務を行うことは税理士法第52条(税理士業務の制限)に違反する。
◇ ◇ ◇
給与支払報告が、年末調整に関する事務に該当するか否か
社会保険労務士が給与支払報告書を作成し提出代行すると、税理士法違反であると言われることがあります。しかし年末調整(従業員の所得税額を確定させる手続き)を税理士が行ってさえすれば、税理士以外の者がその計算結果を給与支払報告書に転記し、市区町村に提出代行すること自体は、ただちに税理士法第2条には抵触しません。
◇ ◇ ◇
・労働社会保険諸法令とは、
1.労働基準法
2.労働者災害補償保険法
3.職業安定法
4.雇用保険法
5.労働保険審査官及び労働保険審査会法
6.独立行政法人労働者健康福祉機構法
7.職業能力開発促進法
8.駐留軍関係離職者等臨時措置法
9.最低賃金法
10.中小企業退職金共済法
11.国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法
12.じん肺法
13.障害者の雇用の促進等に関する法律
14.独立行政法人雇用・能力開発機構法
15.激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律
16.労働災害防止団体法
17.港湾労働法
18.雇用対策法
19.炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法
20.労働保険の保険料の徴収等に関する法律
21.家内労働法
22.勤労者財産形成促進法
23.高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
24.沖縄振興特別措置法
25.労働安全衛生法
26.作業環境測定法
27.建設労働者の雇用の改善等に関する法律
28.賃金の支払の確保等に関する法律
29.本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法
30.労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律
31.地域雇用開発促進法
32.中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律
33.介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律
34.労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法
35.短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
36.育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
37.林業労働力の確保の促進に関する法律
38.雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
39.個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律
40.健康保険法
41.船員保険法
42.社会保険審査官及び社会保険審査会法
43.厚生年金保険法
44.国民健康保険法国民年金法
45.年金福祉事業団の解散及び業務の承継等に関する法律
46.石炭鉱業年金基金法
47.児童手当法
48.老人保健法
49.介護保険法
50.前各号に掲げる法律に基づく命令
51.行政不服審査法(前各号に掲げる法令に係る不服申立ての場合に限る。)
52.雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律
53.個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律
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非弁行為と士業独占について
ある業務より報酬を得ている場合に、当該業務が事件性を帯びてきたら(紛争の香りがしてきたら)に意図せず非弁行為に該当してしまうことがありますので特に隣接士業の方(司法書士、行政書士、社会保険労務士、公認会計士、税理士、中小企業診断士など)は留意が必要です。
税理士業務と無償独占性について
税理士法は、弁護士法がカバーする一部の専門的領域(税務領域)について切り出して規定されています(したがって弁護士は当然に税理士業務を行えます。)。しかし、弁護士業務の大部分が有償独占であることに対し、税理士業務は無償独占とされており規制の程度が強化されています(税理士法基本通達2-1)。
公認会計士・税理士・行政書士・弁護士と商業登記
公認会計士は、民事局長回答により司法書士法第73条ただし書きに相当する公認会計士法第2条2項に付随する商業登記を業として行うことが可能です。一方で、税理士・行政書士には、ただし書きに相当する法令等がありませんので、商業登記を業として行うことができません。なお、弁護士は、弁護士法3条に基づき、登記申請代理業務(商業登記+不動産登記)を行うことが可能です(東京高裁平成7年11月29日)。※ 公認会計士は業務に付随する必要があるが、弁護士は業務に付随する必要がない。